何も言わなくていい
セラピストは彼女のファイルを開いた。左肩が右より張っている。圧は三段目がちょうどいい。最近眠りが浅い。後半は音楽を切る。横になりながら彼女は思った。覚えられているというのは、こういう感覚なのだ。自分を説明し直す必要も、他人になり直す必要もない。
この回、彼女は眠った。疲れ切って落ちる眠りではなく、安心して浅く眠る、いつでも起きられるのに起きたくない眠りだった。目覚めたとき、お茶はまだ温かく、窓の外はすっかり暗くなっていた。
ファイルの外側
コンシェルジュは見送りながら、何気なく付け加えた。「再来週、出張ですね。着いた夜の枠、先に押さえておきましょうか?」彼女は一瞬、虚を突かれた。それは茶席のそばで一度だけ口にした旅程だった。
彼女は笑って、押さえておいてと言った。扉を出ると夜風は冷たく、彼女はマフラーを少しだけきつく巻いた。だが心のどこかは温かかった。この街に、彼女を覚えている場所が一つある。


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